【5/28/2026】製造業 時給$30突破、総報酬コストは$46.30に達する

なぜ今、人材戦略が問われているのか
2025年9月に大枠が合意された日米投資枠組みにより、日本企業による対米直接投資は新たな加速フェーズに入っています。CSISの分析によれば、日本の対米直接投資残高は2024年時点で8,200億ドルに達し、6年連続で世界首位を維持しています。半導体・クリーンエネルギー・製造業を中心に、大規模な投資プロジェクトの実行フェーズが本格化する見通しです。
しかし現場では、深刻な問いが浮かび上がっています。「投資計画は決まった。それを現地で動かせる人材は、いるのか」。本稿では、最新の米国労働市場データとJETRO調査をもとに、日系企業が直面する人材確保の構造的課題を整理し、今着手すべき実務的な方向性をご提示します。
米国労働市場で何が起きているか
JETRO FY2025北米日系企業調査(2026年2月公表)では、今後1〜2年で米国事業を拡大すると回答した企業は48.3%にのぼります。一方で経営課題の第1位は「賃金上昇・人材確保」であり、投資意欲と人材確保の現実との間に大きなギャップが生じていることが明らかになっています。
採用市場の状況も厳しい状況が続いています。BLS JOLTSの最新データ(2026年3月)では求人数690万件に対し採用数は560万件にとどまり、「低採用・低解雇(Low-hire, Low-fire)」の膠着状態が18カ月以上継続しています。製造・エンジニアリング領域のリーダー職では、採用完了まで平均42日以上を要するケースが常態化しています。
さらに、移民政策の強化により外国人労働者の確保は難しくなっており、日英バイリンガルの専門人材の希少性は今後さらに高まる見通しです。加えてBLS CES(2026年4月)では製造業非管理職の平均時給が初めて$30.10を超え、賃金・福利厚生を含む総報酬コストは$46.30/時間に達しています。採用競争力を維持するための報酬水準の確保は、もはや経営上の必須課題となっています。
Table B-8.産業別・非農業民間部門における生産・非管理職従業員の平均時給および平均週給(季節調整済) 
★ Manufacturing(製造業)行をハイライト表示。 (p) Preliminary(速報値)
出典:U.S. Bureau of Labor Statistics, Employment Situation, Table B-8(2026年5月8日発表) https://www.bls.gov/news.release/empsit.t24.htm
日系企業が直面している現実
大型投資プロジェクトの実行フェーズにおいて、最大の制約要因は「資金」でも「技術」でもなく「人材」であるというのが、現地の実態です。
三菱商事によるAethon Energy買収(約52億ドル)や東京ガスの米国投資集中など、M&Aを通じた事業拡大が相次ぐ中、買収後のHR統合(報酬体系・就業規則・組織設計の統一)が不完全なまま運営されているケースが多く報告されています。統合の遅れは、現地社員の離職・モチベーション低下・事業パフォーマンスの悪化に直結します。
また多くの日系企業では駐在員が現地経営の中核を担っていますが、駐在コストは現地採用の3〜5倍ともいわれています。投資規模が拡大するほど、駐在員依存モデルのコストと持続可能性の両面での限界が顕在化します。現地マネジメント人材の採用・育成と権限移譲を同時に設計することが、投資効果を最大化する上で不可欠です。
今後12〜24カ月で想定される変化
今後12〜24カ月で、以下の変化が日系企業の人材環境に影響を与えることが想定されます。
- 製造投資の集中による地域単位での人材争奪激化。半導体・EV・クリーンエネルギー関連の工場建設が南部・中西部に集中しており、日系企業同士の採用競争も顕在化しつつあります。
- Non-compete規制緩和による人材流動性の向上。テネシー州では2026年7月1日施行の新法により年収$70,000未満へのNon-compete契約が無効化されます。全米34州で関連法案が審議中であり、熟練人材の引き抜きリスクは高まる一方です。
- 大手企業のコーポレート人員削減による高スキル人材の流動化。Walmart・GM・LinkedInなどが管理部門の人員を削減しており、採用ターゲットを多様化することでこれまでリーチできなかった人材層へのアクセスが可能になります。
企業が今着手すべき3つのこと
① 現地採用ロードマップの同時立案。投資プロジェクトのフェーズごとに必要な人材・職種・採用タイムラインを可視化し、事業開始の6〜12カ月前から採用を開始することが、現地での競争力維持の前提となります。
② 現地マネジメント人材のサーチと育成。即戦力のエグゼクティブサーチと、社内の現地スタッフを次世代リーダーとして育成するサクセッションプランの両輪が必要です。駐在員への依存度を段階的に下げながら、現地に権限と情報を移す設計が求められます。
③ 報酬ベンチマークの最新化とジョブグレード設計。時給$30超の市場では、スキル別に報酬レンジを設定しない限り、専門人材のリテンションも新規採用も困難になります。市場連動型の報酬体系への移行を、今期中に着手すべき優先課題として位置づけていただくことをお勧めします。
人材戦略を、経営の議題へ
米国への投資加速は、日系企業にとって大きな成長機会です。しかし投資の効果を現地の事業成果に変換するためには、「資金を動かす」と同時に「人材を動かす」設計が不可欠です。人材戦略を投資計画の後追いにするのではなく、経営判断と同じテーブルで議論する——その転換が、今まさに求められています。
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主要参照データ
BLS Employment Situation Apr 2026 / BLS JOLTS Mar 2026 / BLS CES Apr 2026 / JETRO FY2025 North America Survey (Feb 2026) / CSIS US-Japan Workforce Development Analysis (Apr 2026) / NAM Q1 2026 Manufacturers’ Outlook Survey / HiringThing Hiring Market May 2026 / Indeed Hiring Lab 2026