【7/14/2026】採用市場は州ごとに違う? 全米平均という数字の落とし穴

採用市場は州ごとに違う? 全米平均という数字の落とし穴
同じ失業率4.3%でも、採用のしやすさは州で分かれる。複数州で展開する企業が考慮すべき前提
2026年6月23日、BLS(米国労働統計局)が最新の州別雇用統計(2026年5月実績)を公表しました。全米の失業率は4.3%で前月・前年ともに横ばい、数字だけを見れば、労働市場は落ち着いているように見えます。
その全国平均の内側では、州ごとに採用のしやすさ、給与水準、必要なリードタイムが大きく分かれており、全米平均を前提にした人員計画は日系企業が見落としやすいテーマです。一方で、放置すると採用競争力の低下や人件費の想定外の増加につながるため、本稿では最新データをもとに地域差の実像を整理し、企業が今取り組むべき対応策をひも解きます。
なぜ全米平均では読み違えるのか
米国では労働市場が全国一律で動いているように語られがちですが、実際には州ごとの産業構成・人口動態・景気局面の違いによって、採用環境は大きく分かれています。全国指標が安定していても、ある州では人材の獲得競争が激化し、別の州では需要が緩んでいる、という状況が同時に起こり得ます。
本社が全米平均を基準に判断すると、現地の実態と噛み合わない給与提示や採用スケジュールにつながりかねません。まずは、最新データが示す「事実」を確認します。
州で分かれる採用市場——最新データが示す事実
BLSの発表によると、2026年5月の全米失業率は4.3%で、前月・前年ともに横ばいでした。失業率は6州で低下、2州で上昇、42州とワシントンD.C.で横ばいという結果です。全国レベルでは大きな動きはありません。

濃い州ほど失業率が高く、薄い州ほど低い。全米平均4.3%の内側に、3.3%以下から5.1%以上まで大きな地域差がある。自社の拠点州は、この色分けで位置づけを確認できる。
出典:U.S. Bureau of Labor Statistics, State Employment and Unemployment — May 2026(2026年6月23日発表)
主要州の失業率を比較すると、その差はさらに明確になります。以下は代表的な州の例です。
| 州 | 失業率(2026年5月) | 主な産業 |
|---|---|---|
| ハワイ | 2.5% | 観光 |
| アラバマ | 3.0% | 自動車・製造 |
| インディアナ | 3.3% | 製造 |
| ジョージア | 3.4% | 物流・サービス |
| テキサス | 4.3% | エネルギー・先端製造 |
| ニューヨーク | 4.6% | 金融・テクノロジー |
| イリノイ | 5.1% | 製造・物流 |
| ミシガン | 5.1% | 自動車・製造 |
| カリフォルニア | 5.3% | IT・サービス |
| ワシントンD.C. | 6.1% | 行政 |
出典:U.S. Bureau of Labor Statistics, State Employment and Unemployment — May 2026(2026年6月23日発表)。全州の数値はBLSニュースリリース表1に掲載。
注目すべきは、同じ製造業の集積州でも、インディアナ(3.3%)とミシガン(5.1%)で失業率が2ポイント近く違う点です。「製造業だから」「南部だから」という業種・地域のくくりだけでは、採用の難易度は読めません。さらに、前年比では16州で失業率が上昇、6州で低下、28州とD.C.でほぼ変化なしと、変化の方向自体が州によって分かれています。
雇用(非農業部門)の増減も同様です。以下の通り、雇用が増える州と減る州が併存しています。
| 州 | 雇用の前年比増減 | 変化率 |
|---|---|---|
| ノースカロライナ | +61,800人 | +1.2% |
| ネバダ | +29,200人 | +1.8% |
| バージニア | -52,200人 | -1.2% |
| ワシントンD.C. | -40,300人 | -5.3% |
出典:U.S. Bureau of Labor Statistics, State Employment and Unemployment — May 2026(2026年6月23日発表、季節調整済み・速報値)
ノースカロライナ(+61,800人)やネバダ(+29,200人)が雇用を増やす一方、バージニア(-52,200人)やワシントンD.C.(-40,300人)は減少しています。全米平均が横ばいでも、拠点の所在州によって人材の需給は逆方向に動き得るということです。
この地域差が採用・給与・人員計画に及ぼす影響
同じ「4.3%」でも、拠点の所在州によって採用の現実は異なります。失業率が2〜3%台の州では人材の取り合いが起きやすく、オファー承諾率の低下や採用リードタイムの長期化が生じやすくなります。逆に需要が緩む州では、同じ職種でも採用コストや必要期間が下がる可能性があります。
なお、失業率と賃金水準は完全には連動しませんが、一般に、労働需給が引き締まった(失業率が低い)地域ほど、人材確保のために提示給与が押し上げられやすいとされます。つまり、失業率の低い州の拠点ほど、全米平均を基準にした給与レンジでは市場に届きにくい、という構図が生まれます。全社一律の採用予算・給与テーブルでこの差を吸収できるかどうかが、採用力と人件費コントロールの分岐点になります。
リモート採用は「複数州同時対応」になる
リモートポジションを全米で募集する場合、応募者の居住州ごとに労働市場の水準が異なります。求人を1件掲載するだけで、実質的には複数州の市場に同時に向き合うことになります。
このとき、単一の給与提示では、失業率の低い州の候補者には物足りず、高い州の候補者には割高になる、という不整合が起きやすくなります。リモート採用を前提とするなら、居住州に応じた給与レンジの幅を、あらかじめ設計に織り込んでおく必要があります。
日系企業が直面している現実
日系企業では、給与レンジや昇給幅を本社基準あるいは全米平均で設計するケースが少なくありません。しかし州別データが示す通り、その前提は拠点ごとの現実と乖離し得ます。
失業率の低い州の拠点では、本社基準の給与では採用が進まず、既存社員の定着にも影響が出る恐れがあります。採用コスト・定着率・人員計画――この三つが、拠点ごとに異なる前提で動いていることを、本社と現地の双方が把握しておく必要があります。
今着手すべき実務的な対応3点
① 給与レンジの地域補正
担当:人事(本社・現地の連携)。タイミング:次回の予算編成・給与改定時。内容:全米平均ではなく州・都市単位の賃金ベンチマークを更新し、拠点ごとの提示レンジに反映する。特に失業率の低い州の拠点では、本社基準との差を優先的に点検します。
② 採用リードタイムと人員計画の見直し
担当:各拠点長+人事。タイミング:年度の採用計画策定時。内容:拠点ごとの労働需給を反映した採用スケジュールを設定し、増員・採用の優先順位を全社一律ではなく州ごとの需給と事業計画の両面から配分する。
③ 既存社員の給与逆転(compression)の点検
担当:人事+各部門長。タイミング:四半期ごと。内容:新規採用の市場水準が上がった州では、在籍社員と新規採用者の給与逆転が起きやすくなります。採用市場の変化を、既存社員の給与調整にも反映できる仕組みを整えます。
まとめ:人材戦略を経営の議題に
米国の採用環境は、全国平均という単一指標では捉えきれない地域差を抱えています。「全米平均で見れば横ばい」という認識のまま拠点ごとの計画を立てると、採用の遅延や給与の乖離、定着率の低下といった形で、後から影響が表面化します。
第一歩は、次回の予算編成や給与改定のタイミングで、拠点の所在州の最新データ(失業率・雇用動向)を確認し、給与レンジと採用計画に反映することです。州別雇用データは毎月更新されます。人材戦略を経営の議題として、地域差を前提に定期的に点検する体制が、採用力の維持に直結します。
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主要参照データ
- BLS State Employment and Unemployment — May 2026(2026年6月23日発表、USDL-26-1019)
- BLS Local Area Unemployment Statistics (LAUS)
- BLS The Employment Situation — June 2026(2026年7月2日発表/全米失業率の月次補足)
- 図の出典:BLS State Employment and Unemployment — News Release Charts