米系企業のオフィス再開発表とそこから考えられること

人事・組織

更新:08/25/2021

米国では感染力が強い変異株(デルタ株)が流行し、経済活動再開の計画に少なからず影響が出てきているなか、米系企業のなかには、従業員をオフィスに戻す時期を来年まで延期することを発表したところもあります。このような状況を受け、オフィス再開やワクチン接種義務について、在米日系企業としてはどのように考えて行動するべきか?について、HR Linqs, Inc. 榊原 将氏にご寄稿をいただきました。ぜひご覧ください。

ほんの2か月ほど前の7月上旬には、COVID-19の収束を間近と感じ、多くの企業が9月初旬のレイバーデイ前後を目途に(ハイブリッド出社)でのオフィス再開を目指していた。しかしデルタ株の感染者増加に伴い、誰もが知る米系大手企業が「オフィス再開の時期を10月中旬や2022年まで延期をする」という発表を相次いで行ったのが8月前半である。

そして、オフィス再開延期の発表と共に、ワクチン接種を義務付ける企業も増加している。米系企業のオフィス再開の方法を踏まえて、在米日系企業がいま行えることを改めて考えてみたい。

ワクチン接種義務について

ワクチン接種の義務化は賛否両論の多い方針である。ワクチン接種者であっても、義務化には反対という人も多い。米国最大の雇用主である連邦政府が、ワクチン接種義務(または週1回のテスト)という方針を打ち出した。この方針は民間企業にも影響が出ることを期待した上で出された方針である。しかしながら、調査会社Gartner社の調査によると、「全従業員にワクチン接種を義務付ける予定」としている企業は10%にも満たない状況である。その背景に考えられるリスクは2つある。

 

●考えられるリスク① 訴訟リスク

ワクチン接種の義務化において必ず検討が必要なのは、公民憲法第7条(Title VII of Civil Rights act)とアメリカ障害者法(Americans with Disabilities Act:ADA)である。健康上、宗教上の理由により、ワクチンを接種できない従業員への対応を考える必要があり、またその他の理由でワクチン接種をしない従業員への対応を事前に検討しておく必要がある。

 

●考えられるリスク② Great Resignation(大辞職)のリスク

現在の米国は売り手市場である。2021年4月に919万件、5月に948万件、6月に1,007万件の求人があるが、他方で求職者は860万人しかいない(ちなみに多くの州において、その人口は1,000万人以下である。例えばニュージャージー州の人口は890万人ほどであることを考慮すると、求人数の多さのイメージがつき易い)。求人が多く出ているため転職活動も活発であり、4月に400万人、5月に360万人、6月に390万人が辞職をしており、このような状況を米国では「Great Resignation(大辞職)」と呼んでいる。

この点、つまり人材の流出が2つ目に考慮をすべきリスクとなる。ワクチン接種義務を発表した企業は、一時的な人材の流出があった場合でも、円滑に業務を継続できるだけの基盤があるだろうと思われる企業であり、またそのような企業は雇用においても優位性がある場合が多い。在米日系企業が同様の対応を行えるかというと、中々難しいのではないだろうか。

異なる視点でのオフィス再開

従業員のオフィス出社を検討するうえでは合理的な理由を探すべきとよく言われているが、立場が異なるため意見が分かれることもよくある。そこで、リモートワークとオフィス出社それぞれについて、従業員と企業の視点を考えてみたい。

●リモートワーク
COVID-19以降、従業員が企業に求めることのひとつにFlexibilityがある。リモートワークでは「Where, When, and How to Work(どこで、いつ、どの様に働くか)」を可能とする。

●オフィス再開(出社)
企業としては、「従業員同士が集まることにより、業務効率化やコミュニケーション活性化につながり、よりクリエイティブな環境を生むことでの生産性の向上や、ゆくゆくは企業文化醸成にもつながるだろう」と考える。リモートワークからオフィス再開に切り替えることは、従業員にとっては短期的なFlexibilityが失われるデメリットが大きい一方で、企業側は生産性の向上につながる長期的なメリットを考えているケースが多い。
上記のように、従業員、企業側がそれぞれ異なる視点から見ていることを考慮する必要がある。

オフィス再開に対して検討できること

では、在米日系企業がオフィス再開を検討する上ではどんなことができるだろうか。

グーグルやアマゾン、フェイスブックなどの米系大手企業が大胆に、一気に、トップダウンにてオフィス再開の発表を行うことができたのは、従業員数が多いゆえに統率を取れる方法が限られたためである。他方で、少数精鋭で稼働している企業にとっては、従業員の意見を聞ける規模である点がメリットとなる。またどんなに慣れ親しんだことでもブランクがあることで、再度慣れるまでには時間がかかる。いま多くの従業員は、過去18か月間に渡ってオフィス出社をしていないというブランクがある。

企業規模をメリットと捉えて、従業員と共にオフィス再開を計画することで、このブランクを緩和し、再開タイミングや方法を共に考えていくことができるだろう。そのための施策を下記に挙げる。

●事前調査
従業員サーベイをとって、オフィス再開に関しての条件、不安・不満を聞いた上での解決策を事前に講じる。

●テスト再開、もしくは再開を段階的に行う
核となる従業員、部署毎、少人数のグループ分けをした上で、オフィスを試験的に部分再開。追加・修正すべきルールや問題点を見つけ改善した上で、オフィス出社の日数や出社人数を増やす。

 

もちろん方法はひとつではない。この記事がオフィス再開を検討するうえで少しでもヒントになればと願う。

 

<参照>
Another 3.9 million people quit their jobs in June—and many are getting higher-paying roles / CNBC (August 10, 2021) 

There are about 1 million more job openings than people looking for work / CNBC (August 8, 2021) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊原 将 / Sho Sakakibara
President & CEO / HR Linqs, Inc.
Email: ssakakibara@hrlinqs.com

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Pasona N A, Inc.
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