大麻使用による解雇は可能? 大麻規制緩和が進むアメリカにおける雇用者の対応方法

人事・組織法律

更新:04/20/2021

アメリカ各州では近年急速に大麻の規制緩和が進んでいます。3月末にはニューヨーク州でも成人による嗜好用大麻の使用を合法化する法案が署名され、州としては15番目の合法化になりました。2020年11月に行われた米国世論調査会社ギャラップ社の調査によると、「大麻合法化を支持する声は68%に達し、前年の66%からさらに上昇して過去最高の水準となっている」ようで、この流れは今後も加速するのではないかという見方があります。この状況変化に対して、実際にアメリカで従業員を雇用する企業様としては、どのような対応をすれば良いのか不透明に感じている方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで今回は、Smith, Gambrell and Russell, LLP(SGR法律事務所)猪子晶代弁護士にご寄稿いただき、法的な観点からアメリカ全土での大麻規制緩和の流れについてご説明いただいたうえで、雇用者に求められる対応をまとめていただきましたので、ぜひご覧ください。

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大麻の種類

まず、アメリカの大麻規制緩和を理解するにあたって、大麻の種類を知っておく必要があるため、ご説明します。

大麻(カンナビスCannabis)には、大きく分けて、葉の部分のマリファナ(Marijuana)と茎と種子の部分であるヘンプ(Hemp)があります。葉の部分であるマリファナは、多幸感・陶酔感が得られる(ハイになる)THCという成分が多く含まれるのに対し、ヘンプは、THCの含有量が少なく(0.3%以下)、CBDという成分が多く含まれます。CBDには、ハイになる効果はありません。ヘンプは、CBDオイルという名称で、液体やカプセルの形状で流通しています。

各州の大麻の規制緩和には、マリファナとヘンプ両方を合法にしている州とヘンプのみを合法にしている州がありますので、注意が必要です。

 

連邦法

連邦法である規制物質法(Controlled Substances Act)上、マリファナは、濫用の危険性が非常に高い麻薬としてヘロインと同じ区分である表Ⅰ(Schedule I)に分類され、製造・所持・使用・譲渡・販売等が違法となっています。他方、ヘンプは、2018年12月の法改正により規制物質から外され、連邦法上、合法となりました。

連邦政府に製品を納める企業は、連邦法である薬物のない職場に関する法律(Drug-Free Workplace Act)により、マリファナを含む職場における規制物質の使用が禁止されています。

 

州法

1. 成人による娯楽のための使用

2021年3月末時点で、マリファナの成人による娯楽のための摂取が合法化されているのは、15州(アラスカ州、アリゾナ州、カリフォルニア州、コロラド州、イリノイ州、メイン州、マサチューセッツ州、ミシガン州、モンタナ州、ネバダ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、オレゴン州、バーモント州、ワシントン州)とワシントンDCです。加えて、バージニア州では2021年7月1日より合法化される予定となっており、ニューメキシコ州でも、合法化する法案が議会で成立し州知事の署名待ちとなっています。その他、サウスダコタ州では、法案が成立したものの、2021年2月に連邦地裁が違憲判決を出し、現在上訴審にて係争中です。

 

2. 医療目的の使用

マリファナの医療目的での使用が認められているのは、上記娯楽のための使用を認めている15州を含む36州とワシントンDCです。合法な用法・容量は州法によって異なります。その他、ミシシッピ州では、合法化する法案は承認されたものの、州最高裁にて争われています。

 

3. 大麻使用の刑事処罰の廃止

娯楽・医療目的のマリファナ使用を合法化している州では、州法に従って使用する限り、刑事処罰を受けることはありません。また、娯楽・医療目的のマリファナの所持・使用を合法化していないものの、大麻の所持・使用の刑事処罰を廃止した州も存在します(ノースカロライナ州、ネブラスカ州等)。また、大麻の非処罰化の州法改正には至っていない州でも、警察・検察による大麻使用の取締りや訴追を停止している自治体が増えてきています。

 

連邦法と州法の矛盾

 マリファナを違法薬物とする連邦法と合法化した州法に抵触・矛盾が生じている点について、どのように理解したら良いのでしょうか。

マリファナ規制に関する国民意識の変化

以下のGallup社による調査結果の表が示すように、2020年には、68%がマリファナの合法化を支持しています。また、年代別に見ても15歳から29歳の79%を中心に、65歳以上でも55%に達するなど、すべての年代で合法化の支持が不支持を上回っています。

出典:Support for Legal Marijuana Inches Up to New High of 68%, November 9, 2020

 

 

職場における大麻規制の変化

このような大麻規制緩和の流れを受けて、アメリカにおいては、多くの企業が職場における大麻に関する就業規則の変更や運用の見直しを迫られています。ただ、大きな変化の中で必ずしも正解の対応がハッキリしているわけではないため、未だ混乱も大きく、経営陣や人事部を悩ませているというのが現状です。特に、複数の州で事業展開をする会社は、州に関係なく社内で統一した就業規則を定めていることも多く、これを機に大麻関連のみ州レベルで別々に規定・運用するか、または事業展開をするすべての州法に抵触しないように社内で統一した就業規則を改定するか、という点も決定しなければなりません。

 

飲酒との比較におけるマリファナの薬物検査の難しさ

雇用者によっては、マリファナの服用を飲酒と同等に位置づけ、酔っぱらった状態で職場に来てはいけないというルールと同様に、ハイな状態で職場に来てはいけないというルールを新たに設けるところもあります。しかし、飲酒がその場のテストで規定のアルコール数値を上回ると酔っぱらっている事実を証明できるのに対し、マリファナのハイになる成分THCの検査は、一度のみの使用でも7日間陽性反応が出る、日常的な服用の場合は10日間から30日間(もしくはそれ以上)陽性反応が出ることから、陽性反応が出ただけで「ハイな状態で」仕事をしていたと結論付けることはできないという難点があります。従業員の唾液を専門業者に送り検査の上24~48時間以内の使用があったかどうかを確かめることは可能ですが、専門業者を使っての検査という点で経済的に負担となりえます。

また、医療目的で合法にマリファナを服用している場合、飲酒と同様に位置づけるよりも、処方薬の服用の問題として扱う方が適切でしょう。ネバダ州やニューヨーク市等、採用段階における薬物検査の実施やマリファナの陽性反応を理由とした採用の見送りを禁止するところも出てきています。

 

大麻規制緩和を受けて雇用者に求められる対応

大麻規制緩和を受けて、雇用者に求められる対応としては、就業規則の確認と大麻の陽性反応が出た場合の対応方法の見直しです。大麻の使用に関する就業規則を見直すにあたっては、まず、事業を行う場所の州法および地方自治体の条例等を確認することが重要です。娯楽目的の使用が合法になっているか、医療目的の場合のみ適法か、全面的に禁止されているか、確認しましょう。

次に、就業規則(Employee Handbook)上のルールを確認し、改定の必要があるかどうかを検討しましょう。ほとんどの就業規則では、違法薬物の使用禁止についての定めがあります。マリファナの娯楽としての使用を認めている州でも、各企業が会社敷地内でのマリファナの使用を一切禁止することについては、問題がありません。また、従業員の安全を第一に、アルコールや薬物の影響を受けている状態で職務を遂行することを禁止することについても問題ありません。

ただ、上記のような大麻規制緩和を考慮すると、娯楽目的または医療目的で大麻の使用を認めている州においては、これまでのように、ドラッグ・テストで陽性反応が出た場合に、その検査結果のみを見て即刻不採用または解雇という運用は、今後は避けた方が良いと考えます。医師の処方を受けている場合には当該従業員から事情を聞いた方が良いでしょう。また、明らかにハイになっている場合は、ドラッグ・テストの結果に加えて、具体的症状(ろれつが回っていない、まっすぐ歩けていない、不審な言動等)や職務状態(やるべき作業をできていない、機械の操作ミス、サボり癖、遅刻回数等)を詳細に記録することをお勧めします。ドラッグ・テストで陽性反応が出た各従業員についての事情調査の記録、面談等のやりとりの記録、具体的な職務態度の記録は、労働紛争において、行政や裁判所も重視する重要な証拠となります。解雇や不採用決定後にトラブルや紛争が発生する場合に備え、会社の判断を支える記録をしっかりと残しておくことが大切です。

また、法律と就業規則の抵触を避けるために、適用する州法や地方自治体の法律・条例に従うことを就業規則に明記すると良いでしょう。

実際にマリファナの陽性反応が出た場合で、解雇の方向で進めたいときは、極めて慎重に対応する必要があります。アメリカでは、従業員側の弁護士(原告側弁護士)は、成功報酬制で受任をする場合が大半です。そのため、原告側弁護士は、会社の対応に少しでも問題があるときには、従業員側から着手金を一銭も受け取らずに受任し、弁護士からの手紙を送り会社に和解金を要求したり、会社が訴訟案件を嫌うことを十分理解した上で、最初から和解目的で訴訟を提起したりする例が多く見受けられます。このような和解交渉においても、解雇時の客観的な記録は、会社側にとって有利に働きます。深刻な事態に発展するのを避けるために、解雇時、または紛争トラブルに発展する可能性が出てきた時点で、早めに会社側の弁護士に相談することをお勧めします。

 

おわりに

急速に進む大麻の規制緩和に対する対応策をまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。大麻は、隣国カナダでも全国的に娯楽・医療目的の所持・使用が既に合法化されており、今後、アメリカ各州でもさらなる著しい規制緩和が進むと予想されます。特に、複数の州での嗜好品としての大麻の使用・所持の合法化を受けて、アメリカの食品業界や製薬業界では、企業の大麻製品の研究・開発に対する投資、商品開発等が進んでおり、新たな一巨大産業として注目を浴びています。ビジネスの場における大麻関連の会話も、一昔前はタブーであったのが、最近はよく話題に上がるようになり、新しい分野として受け入れられてきています。他方、従業員の大麻使用による職場の安全やモラルへの影響や懸念は大きく、就業規則やルール作りの点で、雇用者にとっては難しい課題となっております。大麻について連邦政府と各州政府の足並みが揃うまで、また、現在揺れ動いている大麻に対するアメリカ国民の意見が確立するまでは、職場での大麻使用に関するルール作りや修正の課題は続きそうです。本記事が読者の皆様のアメリカにおける事業展開のお役に立てれば大変嬉しく思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

米国弁護士 猪子晶代氏

Smith, Gambrell and Russell, LLP

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Pasona N A, Inc.

mailmagazine@pasona.com

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